訪問診療は、患者が自宅で医療サービスを受けられる在宅医療の一形態であり、高齢化社会においてその重要性が増しています。しかし、訪問診療の費用に関しては、通院や入院と比較して高額であるとの認識が一般的です。本稿では、訪問診療の費用構造を詳細に分析し、通院や入院との比較を行うとともに、費用負担を軽減するための公的支援制度についても考察します。
訪問診療の費用は、主に以下の要素で構成されます。
これらの要素を組み合わせることで、訪問診療の総費用が決定されます。
厚生労働省の「医療保険に関する基礎資料(令和3年度)」によれば、通院にかかる年間費用は約20万円であり、月額に換算すると1割負担で約1,700円、2割負担で約3,400円、3割負担で約5,200円となります。
一方、訪問診療の月額費用は、1割負担で約7,000円、2割負担で約14,000円、3割負担で約20,000円とされており、通院よりも高額になる傾向があります。
しかし、通院には交通費や待ち時間、家族の付き添いによる労力などの間接的なコストも存在します。
これらを総合的に考慮すると、訪問診療の費用は必ずしも過度に高額であるとは言えません。
統計によれば、入院時の自己負担費用の平均は、15〜30日で約28万4,000円、30〜60日で約30万9,000円とされています。
これに対し、訪問診療の月額費用は上述の通りであり、入院費用と比較すると、訪問診療の方が経済的負担が軽減される場合が多いと考えられます。
訪問診療の費用が高額になる場合、以下の公的支援制度を活用することで、患者の経済的負担を軽減することが可能です。
高額療養費制度は、1か月(毎月1日から末日まで)の医療費が自己負担限度額を超えた場合に、超過分が支給される制度です。
所得に応じて上限額が設定されており、申請により適用を受けることができます。
また、事前に限度額適用認定証を取得し、医療機関に提示することで、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることも可能です。
医療費控除は、1年間(1月1日から12月31日まで)に支払った医療費が一定額を超えた場合に、確定申告を行うことで所得控除を受けられる制度です。
控除額は、「支払った医療費の総額 − 保険金などで補填される金額 − 10万円」で計算されます。
これにより、所得税や住民税の負担が軽減されます。
訪問診療の費用は、通院と比較すると高額になる傾向がありますが、入院費用と比較すると経済的負担が軽減される場合が多いです。
また、訪問診療には通院の際の交通費や待ち時間、家族の負担軽減といった利点も存在します。
さらに、高額療養費制度や医療費控除などの公的支援制度を活用することで、費用負担をさらに軽減することが可能です。
したがって、患者の状況やニーズに応じて、訪問診療の利用を検討する価値は十分にあると言えます。