訪問診療の費用に関する考察

はじめに

訪問診療は、患者が自宅で医療サービスを受けられる在宅医療の一形態であり、高齢化社会においてその重要性が増しています。しかし、訪問診療の費用に関しては、通院や入院と比較して高額であるとの認識が一般的です。本稿では、訪問診療の費用構造を詳細に分析し、通院や入院との比較を行うとともに、費用負担を軽減するための公的支援制度についても考察します。

訪問診療の費用構造

訪問診療の費用は、主に以下の要素で構成されます。

  • 基本診療費: 訪問診療料、在宅時医学総合管理料、居宅療養管理指導料などが含まれます。これらは、厚生労働省が定める診療報酬に基づき算定され、訪問回数や診療内容、施設基準の適合状況によって変動します。
  • 加算診療費: 検査や処置、緊急往診など、基本診療以外の医療行為に対して加算される費用です。具体的には、血液検査や尿検査、医療機器の使用などが該当します。
  • 患者負担割合: 医療保険制度における患者の自己負担割合は、年齢や所得に応じて異なります。一般的には、6歳未満は2割、6歳から69歳は3割、70歳以上は1割または2割(所得に応じて)となっています。

これらの要素を組み合わせることで、訪問診療の総費用が決定されます。

通院および入院との費用比較

通院との比較

厚生労働省の「医療保険に関する基礎資料(令和3年度)」によれば、通院にかかる年間費用は約20万円であり、月額に換算すると1割負担で約1,700円、2割負担で約3,400円、3割負担で約5,200円となります。

一方、訪問診療の月額費用は、1割負担で約7,000円、2割負担で約14,000円、3割負担で約20,000円とされており、通院よりも高額になる傾向があります。

しかし、通院には交通費や待ち時間、家族の付き添いによる労力などの間接的なコストも存在します。

これらを総合的に考慮すると、訪問診療の費用は必ずしも過度に高額であるとは言えません。

入院との比較

統計によれば、入院時の自己負担費用の平均は、15〜30日で約28万4,000円、30〜60日で約30万9,000円とされています。

これに対し、訪問診療の月額費用は上述の通りであり、入院費用と比較すると、訪問診療の方が経済的負担が軽減される場合が多いと考えられます。

費用負担を軽減する公的支援制度

訪問診療の費用が高額になる場合、以下の公的支援制度を活用することで、患者の経済的負担を軽減することが可能です。

高額療養費制度

高額療養費制度は、1か月(毎月1日から末日まで)の医療費が自己負担限度額を超えた場合に、超過分が支給される制度です。

所得に応じて上限額が設定されており、申請により適用を受けることができます。

また、事前に限度額適用認定証を取得し、医療機関に提示することで、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることも可能です。

医療費控除

医療費控除は、1年間(1月1日から12月31日まで)に支払った医療費が一定額を超えた場合に、確定申告を行うことで所得控除を受けられる制度です。

控除額は、「支払った医療費の総額 − 保険金などで補填される金額 − 10万円」で計算されます。

これにより、所得税や住民税の負担が軽減されます。

結論

訪問診療の費用は、通院と比較すると高額になる傾向がありますが、入院費用と比較すると経済的負担が軽減される場合が多いです。

また、訪問診療には通院の際の交通費や待ち時間、家族の負担軽減といった利点も存在します。

さらに、高額療養費制度や医療費控除などの公的支援制度を活用することで、費用負担をさらに軽減することが可能です。

したがって、患者の状況やニーズに応じて、訪問診療の利用を検討する価値は十分にあると言えます。

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